運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第167回】 大富運輸株式会社(埼玉県入間市)
バルク輸送に特化した独自の事業展開
競合会社が少ない特殊な輸送分野で独自の事業展開をしているのが大富運輸(埼玉県入間市、尾﨑俊介社長)である。同社は1966年の創業以来、バルク輸送に特化して運送事業を営んできた。ちなみに現在の大富運輸の輸送品目別の割合をみると、炭酸カルシューム29.7%、消石灰17.2%、硼砂11.8%、コークス紛8.8%、活性炭4.8%、ベントナイト3.4%、炭化物2.8%、タルク2.5%、ソーダ灰1.2%、重曹1.0%、PVC(ポリ塩化ビニル)0.8%などとなっている。その他に一般貨物も13.3%あるもののほぼ傭車である。大富運輸の設立は1973年で、1975年に荷主を限定した限定免許を取得した。その後、1980年には一般区域免許を取得、1985年に自動車運送取扱事業の登録もしている。また、1997年にはバルク専用倉庫も建設し、埼玉県より計量証明事業の許可も取得している。
保有車両はバルク車、ダンプアップバルク車、アルミウイング車など26台。社員は20人でうちドライバーは13人である。ドライバー数に対して保有車両数が多いが「バルク車で常時、10品目ぐらい運んでいるがタンク内の掃除が間に合わない時のために車両を多く保有している」(尾﨑俊介社長)。輸送形態は直送便とバルク専用倉庫からの出荷に大別される。直送便は出荷先に引取りに行って納品先に直接輸送するもの。それに対して輸入品はバルク専用倉庫に運ばれてきた海コンのデバニング作業をする。フレコンごと保管し、出荷時にはフレコンからバルク車に積み替えて輸送する。これが詰め替え輸送業務で、フレコンを天井クレーンでつるしてバルク車に積み替えるために高さが必要だ。そのため「バルク専用倉庫は天井の高さ制限(10m)のギリギリの高さにしてある」(尾﨑砂夫会長)という。計量証明書も自社で発行し、バルク物流の一貫業務を行っている。
輸送先は、活性炭やソーダ灰は水処理に使用されるもので浄水場などに納入している。ゼオライトや重曹は焼却場などに運んでいる。いずれも納品先は関東圏内が多い。石灰石も直送で関東エリアに運ぶ。また、炭酸カルシュームは福島、郡山、秩父などに引取りに行き、関東一円に輸送する。納品先はガラス工場、配合飼料工場など。さらに壁紙、フロアシート、スレートなどの工場にも納品している。増量材として使用されているようだ。消石灰は焼却場に納品しているが、輸送先は関東エリアの他、中部地方や関西の一部、北は新潟県や福島県、長野県などにも運んでいる。また、オイルコークスは川崎市の石油会社に引取りに行く。輸送先は工場で、重油よりグレードの低い燃料として使用されるという。特殊な荷物だけに比較的早くオーダーが入る。「1カ月、1週間前など配車予定が分かる」(尾﨑俊介社長)という。その点では計画的な配車が可能である。
このように大富運輸ではバルク専門運送事業者として独自の事業展開をしている。そのため車両や荷役などにも様々な工夫をし、専門事業者としてサービス品質の向上に努めてきた。バルク専用倉庫は先述した通りだが、特殊車両の改良や空気圧送装置の改善などを行ってきた。たとえば荷役作業である。バルク車は納品先で空気圧送によって粉体の積荷を荷受け側の容器に移す。車両には空気を圧送する装置などが搭載されているが、この圧送装置などを自社の経験などからより合理的で効率的になるように工夫し、メーカーの技術者と協力して改良した。また、品質管理面では、異物混入の防止策なども独自に考案した。納入先では異物が混入していないかなどをチェックする。一般貨物なら納品時の検品といえるが大富運輸では、搬入先のチェック以前に混入している異物を発見して、事前に異物などを除去するような仕組みを開発して導入している。
同社が計画しているのが「直送便」を自社サイロで一時保管してバルク車で運ぶ「詰め替え輸送」への転換である。自社の強みは、特殊車両のため競合会社が少ない、工場から納品先までワンストップ運行できるなどである。一方、着荷主の都合による急なキャンセルがあったり、発荷主の設備トラブルなどで突然の出荷停止もある。このようなキャンセルは月平均6台という。そのような中で「2024年問題」といった課題がある。自社のバルク専用倉庫に一時保管して、詰め替えて輸送するようにすれば急なキャンセルなどにも対応しやすくなるし、①工場からの引き取りと着荷主への輸送を切り離すことで労働時間の短縮が図れる、②急なキャンセルによって生じるムダを削減できる、③荷主にメリットを提供することで同業他社との差別化を図れる、④保管料など収入を増やすことで労働時間を短縮しても賃金を上げるための原資が確保できる、といった利点が考えられる。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:大富運輸)