運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第171回】 湘南倉庫運送株式会社(神奈川県平塚市)
病院や介護施設などのBtoBで置き配
宅配分野では不在・再配達を削減するための対策が推進されている。置き配、宅配ボックスの設置、受取先の多様化などである。国交省によると昨年4月の宅配荷物の再配達率は10.4%で、単純計算すると10人のドライバーで配達できる荷物を11人で運んでいることになる。「2024年問題」への対応としても宅配における再配達の削減は重要だ。一方、BtoBの配送では再配達の問題はあまりない。法人なら平日の昼間は人がいて荷物を受け取ることができるからである。だが、荷物の配送先によっては立ち合いなどが大変な職場もある。代表的なのは病院や介護施設などだ。また、ホテルや旅館なども時間帯によっては立ち合いや検品のために人手が割かれると業務に影響がでる。いずれも人手不足の職場なので、必要なルールが確立されてセキュリティなどが担保されれば置き配はありがたい。本来の業務を中断することなく都合の良い時に荷物を確認すれば良いからである。
また、荷物を届けるドライバーにとっても、置き配の方が配送先で納品作業に要する時間が短縮され、総労働時間の短縮につながる。このようなことからBtoBの配送において置き配を実装化し、さらに置き配を導入する納品先を増やそうとしている事業者が湘南倉庫運送(本社・神奈川県平塚市、河野浩平社長)である。同社の創業は1949年12月。平塚市内で米穀の保管倉庫としてスタートした。その後、各営業所を開設し普通倉庫や定温倉庫を展開。押入れ産業にもFCとして加盟し、トランクルーム事業も行っている。また、1988年には湘南流通運輸を設立して運送事業は子会社で行っていたが、2024年4月に湘南倉庫運送に合併・統合した。事業内容は倉庫業(普通倉庫、定温倉庫、保税倉庫)、貨物自動車運送事業、自動車運送取扱業、不動産賃貸および管理業、損害保険代理業、その他である。社員数は75人で、うちドライバーは25人。
常温倉庫では一般家庭用紙、飲料、一般雑貨、工業製品、工業原料、食料品、食料品原料、輸入貨物などを取り扱っている。定温倉庫は米穀類、豆類、パスタ、飲料原料などである。また、トランクルームでは医療機関のカルテ、X線写真、保存文書などを取り扱っている。ただ預かるだけではなく、指示された診療録を届けたり、指示された年度分の文書を溶解処理して再生紙にするといったサービスも行う。本社の他に平塚営業所平塚センター、平塚営業所藤沢センター(藤沢市)、厚木営業所(厚木市)、中井営業所(足柄上郡中井町)、中井営業所中井第2センター(同町内)がある。このような中で湘南流通運輸を合併・統合したのは、「これからは倉庫だけでは成長が難しい。運送も平面的に拡大するしかない。さらに今後は人材の確保やコスト上昇への対応など、緩やかな右肩上がりは難しい時代」(河野社長)という認識からだ。倉庫と運送を連携した事業展開を指向するという。
倉庫と運送の連携サービスを考える中でBtoBの置き配を発想した。置き配は一般的にtoCを対象にしたもの。そこで湘南倉庫運送では、ロジドーン(長野市)などと協業してスマ配ドアプレートを活用し、「BtoB分野のプロモーションは当社がやって行く」(河野社長)ことにした。営業を開始したのは2023年の冬からである。中井営業所には紙製品の荷主がいる。受託している業務内容は製品の保管業務、県内と東京多摩地区に配送する物流センター業務ならびに配送である。配送先は病院や介護施設など。同社では榎本頌平事業開発部長をトップに3人で専属の営業チームを構成し「2023年2月ぐらいから具体的な話を荷主と始めた」(榎本部長)。当初は2023年春から開始する予定だったが、なかなか着荷主の理解を得られず、「発荷主の了解を得て2023年の夏から着荷主を訪問して説明をして回った。発荷主の担当者が同席したケースもあった」(榎本部長)という。
実証実験の開始は2023年秋で、17件が参加して実験をした。実験で出た諸課題を整理して改良を加え、本格的な開始は2024年7月から。仕組みはドライバーのスマホにアプリをログインし、QRコードで出てきた画面に沿って操作して着荷主に置き配のデータを送信する。誤配などがあれば着荷主の担当者は写真をメールに添付して発荷主の担当者に送信。発荷主から問い合わせが来ると在庫と照らし合わる。「これまで立ち会って受け取るのは大変だったが、置き配で時間節約など受け手側の作業軽減になっている」(河野社長)という。取材時点での置き配導入は50件だが、「2025年3月末までには100件に増やす予定」(榎本部長)。さらに「現在の発荷主に関しては当社が担当している神奈川県内と東京三多摩地区以外にも、全国的に置き配を拡大していきたいと思っている。また、紙だけではなく他の商品でもBtoBの置き配を普及させたい」(河野社長)という。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:湘南倉庫運送)