運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第112回】 株式会社商運サービス(東京都練馬区)
「SCT1%CLUB」で雇用・人材確保のトップ1%を目指す
東京商工リサーチによると、2019年(1~12月)の道路貨物運送業の倒産件数は196件で前年比7.6%増だった。負債総額は187億1700万円(前年比9.8%増)で、件数、負債総額ともに2年連続で前年を上回っている。このうち「人手不足」関連倒産が31件で、前年比47.6%の増である。道路貨物運送業の場合、倒産件数に占める「人手不足」関連倒産の割合は15.8%で全業種の約5%よりも3倍ほど高い。「人手不足」関連倒産の内訳は「求人難」が16件と1番多く、「後継者難」と「人件費高騰」がいずれも6件、「従業員退職」が3件である。ここから分かることは、①応募者がたくさん来るような企業になる、②従業員が辞めないような企業になることの必要性である。そのためには人件費高騰や労働条件改善に伴うコスト増にも耐えられるような財務内容の企業にならなければならない。それは同時に、後継者難の解決にもつながることになる。
このような運送業界の実態を踏まえて、業界のトップ1%に入る企業を目指そうというのが「SCT1%CLUB」(Successful Company Top 1% Club)だ。昨年10月にトップ1%を立ち上げたのは商運サービス(本社・東京都練馬区、佐久間恒好社長)。同社は1972年4月の設立で、現在はトレーラや大型車から1t車まで40台を保有し、貨物運送取扱業、産業廃棄物収集運搬業、倉庫業、梱包業、宅地建物取引業、システムの企画・開発・販売などを行い、全省庁統一一般競争入札資格や東京都競争入札参加資格も持っている。従業員は50人規模で、「昔から小さくても企業体質の良い会社にしたかった。今でも企業規模は50人未満で良いと思っている。しかし、当社で働いている人たちが長年勤めることで人生設計ができる会社にしたい。そのためには付加価値の高い企業にしなければならないし、その核になるのは人であり、教育が重要になる」(佐久間社長)と考えている。
だが、それを実現するのには「物流1本ではムリと考えて10年以上前から経営の多角化を考えていた」(佐久間社長)という。そこで、不動産事業部をつくって不動産事業にも進出。昨年の春から事業を開始し、今年1月から神奈川県相模原市の古淵駅の近くで分譲住宅の売り出しを始めた。不動産業への参入目的は利益率が高いからである。不動産の分野では「大手企業が利益率の面から参入しないような物件がある」(佐久間社長)。だが、中小企業なら十分利益を確保できる案件がねらい目なのだという。「働き方改革など社会の変化に対応し、社員の年収を上げていくのは経営者の責任。コンプライアンスを重視しながら収益性を上げていかなければならない」(同)。そこで利益率の高い不動産部門で得た利益を社内で分配し、物流部門の従業員の年収も増やす」(同)。同時に、適正な利益が確保できていれば「荷主に対する価格交渉力も高まる」(同)、という考え方のようだ。
このような多角化の一環として雇用対策支援事業部を設け、雇用対策支援事業としてトップ1%クラブを立ち上げた。「物流・運送業界の働き方改革を推進して、企業の存続・成長・成功を実現するための会員組織」(佐久間社長)で、雇用対策を推進して高品質の労働力を確保し、生産性の高い職場環境を実現する。その結果、6万社以上あるトラック運送事業者の中で、トップ1%に入ることを目指すというもの。いわば「進学塾」のようなもので、志望校に合格するという明確な目標を持った会員で構成する。そこで成長すると同時に、診断などを通して自社の客観的な評価を知ることもできる。もちろん、自社の目標が達成できたら塾を「卒業」してもかまわない。トップ1%クラブを「構想したのは2年ぐらい前で、準備に1年かかった」(同)という。この構想は、一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ創造支援研究所(QOL創研)と知り合ったことも契機の1つになっている。
トップ1%クラブは商運サービスとQOL創研、その他の協力企業と運営する物流事業者の会員組織で、同社の雇用対策支援事業部が事務局になっている。目的は、法令を順守しながら経営計画を達成するために必要な雇用対策および労務管理の支援をメイン事業としている。それに加えて、①雇用や労務管理に必要な行政行為などを実現する活動、②次世代の労働力を創造する活動、③職域拡大を推進する活動を行っていく。設定目標を達成するための最適なコースを会員自身が判断して選定する。各社のレベル(目標)に応じて、安心経営会員、安定経営会員、成長経営会員、発展経営会員、革新経営会員がある。そして、雇用対策レベルチェックをしてプラチナ、ゴールド、シルバー、メルマガの4コースどれかを選択する。トップ1%クラブは昨年10月のスタートだが、取材時点(1月16日)ではプラチナコースの会員が19社、シルバーコースが1社加盟している。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>