運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第152回】 三生運輸株式会社(三重県津市)
安定収入を第一に過去の収入を下回らない固定賃金に
ドライバーの労働時間を短縮することだけが「2024年問題」ではない。当面は賃金を減らさないで労働時間を短縮し、可能なら労働時間を短縮しつつ賃金も増やしていく。そのための原資の確保に努めるのが本来の「2024年問題」である。そこで最近はドライバーの賃金を見直し、歩合部分を少なくして定額化する傾向がある。賃金の固定化は、業務内容の実態に対応しなければならない。そして過去の収入を下回らないことが最低限の条件である。ドライバーの賃金の安定化を第一に考え、2019年秋から労働時間を短縮して歩合が少なくなっても収入が安定するような試みに着手。有給休暇を消化させながら、歩合がなくなると収入が減るのではないか、というドライバーの不安を払しょくしつつ、2021年春から中距離、長距離部門で定額賃金を導入し、さらに2022年11月からは日用雑貨や日配品の店舗配送部門にも定額賃金制を導入した事業者がいる。
この事業者は三生運輸(本社・三重県津市、池田哲也社長)で、小牧営業所(愛知県)、四日市倉庫(菰野町)、セメントオフィス大阪事業所(堺市)がある。通称はSUN-LOGIでセーフティー、スマート、スムースの3Sを表現しロゴにしている。同社の創業は1962年で、最初は生コンや骨材の輸送からスタートした。1970年代になるとバラセメント輸送に進出し、同時にセメントメーカーの製品出荷基地としての業務も行うようになった。経済成長期の1980年代には一般貨物輸送の分野にも参入。だが1997年には創業以来の生コンからは撤退し、一般貨物輸送とバラセメント輸送を事業の柱にした。そのような中で大きな転機になったのは2011年の小牧営業所の開設である。同営業所の開設は、多店舗展開するドラッグストアの物流センターからの店舗配送の業務受託のためで、店舗配送分野への初めての進出であった。現在では売上の大きな柱になっている。
車両保有台数は大型車を主体に82台で、部門別では小牧営業所が43台、本社(津営業所)が29台、バラセメント車が10台である。従業員数は109人で、うちドライバーが93人となっている。業務内容別に見ると、日用品や日配品の店舗配送が売上の69%を占めているが、「2024年問題」や「改正改善基準告示」の関係でみるとほとんど問題はない。残りの31%が大手物流事業者の業務受託とセメント輸送、その他である。このうち大手物流事業者からの業務受託は拠点間の中長距離輸送や三重県内の横持ち輸送、法人からの集荷となっている。拠点間輸送は大型センターから小型センターへの輸送などで、鈴鹿から山梨県の甲府への当日折り返し運行。車中泊運行では津~横浜、津~東京・羽田、津~津山(岡山県)の3運行がある。また三重県内の横持ち輸送でも、同県は北勢から南勢まで南北間の距離が長いために1人のドライバーでは時間的に厳しい運行もある。
そこで中ロット貨物を四日市から南勢に運んだり、法人から集荷するような拠点間輸送では、本社所在地の津でドライバーが乗り継ぐ中継輸送方式を取り入れている。この中継方式は「10年前に1台からスタートし、現在は3台になっていて、集荷と配送の両方がある」(池田社長)。中継輸送は人件費が増えるので独自の運賃算出に基づく契約にしている。また、鈴鹿から甲府の当日折り返しは、鈴鹿を15時に出発し、20~21時に甲府着、22~23時に甲府発で3~4時に鈴鹿着で、運転時間(ハンドル時間)は9時間である。津~横浜、津~羽田、津~津山の拠点間輸送は車中泊になるが、「今は良くても今後は車中泊をしてくれるようなドライバーがいるかどうかが心配」(同)という。このような中で同社はドライバーの収入の安定化のために固定賃金制に移行した。これは「2024年問題もさることながら第一の思いはドライバーの安定的収入にある」(同)という。
固定給化への着手は労働時間の長い横持ちグループからだった。「長時間労働でとくに待機時間が長かったために時給に換算すると安かった。収入を減らさずに稼働日を月20日ぐらいに抑えたかった」(池田社長)からである。そこで2019年の秋から有給休暇の消化などで稼働日数を減らして「収入は下げずに20日稼働にした」(同)。歩合がなくなる不安を払しょくし、2021年の春からは小牧営業所以外で導入、さらに2022年11月からは小牧営業所のドライバーにも導入した。基本的には、インセンティブも含めてみなし残業代とし、残りは調整金にしたのである。固定給=基本給+みなし残業代(1.25倍)+調整金で、調整金の部分で現場の実態や個人間の対応をし、忙しい時も暇な時も収入を安定するようにしたのである。このように固定賃金を導入したが、「ベースアップと賞与支給がどれだけ実現できるかは今後の課題」(池田社長)としている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>