運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第158回】 株式会社アップル運輸(長野県上田市)
引越を基軸に2マン配送サービスを展開
競争に勝ち残っていくには、独自のサービスを展開することで同業他社との差別化を図ることが重要だ。そこで引越サービスを基軸にしながら、そのノウハウを活かしてツーマン配送サービスを展開しているのがアップル運輸(本社・長野県上田市、小野秀彦社長)である。アップル運輸は1980年に農産物販売や輸送業として創業し、1987年に株式会社として設立。1989年からはいち早く引越サービスを開始している。さらに引越サービスの延長として1993年にはツーマン配送の「ツーマンライナー」を始め、1996年からはレンタルコンテナの「ご家財あんしんBOX」のサービスも開始した。最近の住宅は収納家具などが備わっているので、引越でも大型家具などの輸送が減ってきた。半面、家電量販店が販売する家電の大型化や、ネット通販でも大物配送が増えてきた。そのため引越サービスのノウハウを活かせるツーマン配送のニーズは増えている。
アップル運輸は現在、一般貨物運送事業、貨物輸送取扱事業、コンテナ賃貸および販売、業務請負業、特定労働者派遣業、産業廃棄物収集運搬業、飲食業などを行っている。物流関連事業としては引越サービスを基軸に、ご家財あんしんBOX、アップルツーマンライナー(ホームライナー、ビジネスライナー)がある。事業所としては、本社ならびに上田営業所の他に、長野営業所(長野市真島町)、長野南営業所(長野市御厨)、松本センター(松本市)、伊那営業所(伊那市)、山梨営業所(山梨県昭和町)がある。関連会社は、アート引越センター長野、ハローロジネット。従業員数は170人で、保有車両数は約90台である。事業別の売上比率は、引越サービスが50%強、ツーマンライナー(ホームライナーとビジネスライナー)が35%、一般貨物輸送が15%弱となっている。引越サービスが売上の過半を占め、引越のノウハウを活かしたツーマンライナーが第2の柱である。
引越は新人でも助手から入れるので、作業員として戦力にしながら教育することができる。「来春入社予定の高校新卒の内定者が3人いるが、引越は若手の受け入れ窓口となっている」(小野社長)。引越サービスで育成した人材とノウハウを活かせるサービス分野としてツーマン配送を位置づけ、力を入れて取り組んできた。それがツーマンライナーである。ツーマンライナーにはビジネスライナーとホームライナーがある。ビジネスライナーは、基本的には法人の事業所などにツーマンで配送するtoBサービスで、取り扱い荷物としてはコピー機、複合機、事務用品、事務机、金庫、ロッカー、その他がある。それに対してホームライナーは、基本的には一般家庭にツーマンで配送するtoCサービスだ。取り扱い荷物はシステムキッチン、ユニットバス、トイレタリー、大物家具、ベッド、タンス、机、ソファー、大型家電、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、ピアノ、金庫その他である。
アップル運輸のツーマンライナーのシステムは、ツーマンで配送する大型商品を集荷(持ち込みもある)して、ハブで配送コースごとに仕分けて配送するというもの。ハブは長野南営業所、松本センター、山梨営業所の3カ所。上田営業所は長野南ハブのサブ的な位置づけになっている。長野南ハブと上田営業所の関係は「両営業所間で人や車のやりくりをしている。また、上田営業所は引越サービス部門も兼用して助手を採用する基地になっている」(垣見洋専務)という。上田営業所は引越サービスを主としているが、今後、ツーマン配送の荷物が増加してくればハブに昇格する可能性もあり得る。長野南ハブは長野市や上田、県北などを配送エリアとしている。松本ハブは伊那などの南信もカバーしている。山梨ハブは山梨県全域が配送エリアだ。同社がツーマンライナーに使用している車両は集荷車両と配送車両を合わせて30台ぐらいである(専用車ではない)。
基本的な仕組みは、集荷車両が集荷してハブに持ち込む(他社の持ち込みもある)。2カ所のハブに順番に持ち込むケースもある。夕方に各ハブ持ち込まれた荷物は、翌朝に配送コースごとに仕分けして車両に積み込んで配送に出発する。また、「新しく建築される住宅は階段の幅などが狭くなってきている。そのため2階の部屋に階段を使って作業員が家具や家電など大型の荷物を搬入できなくなり、ユニックで吊り上げて窓から搬入する」(小野社長)といった需要も出てきた。ユニック車両は販売店のチャーターで、搬入作業料はユーザー負担である。ツーマンライナーでは今後、長野県の南信エリアでの営業開拓を強化していく。さらに、山梨エリアでは、東京・八王子寄りの地域に新拠点を開設する準備を進めている。新拠点は東京の三多摩地区を視野において営業展開するためのもの。「最初は山梨ハブのサブ的な位置づけとしてスタート」(垣見専務)する考えのようだ。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>