運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第115回】 司運輸株式会社(滋賀県長浜市)
生産性向上で売上と賃金を下げずに時短推進
運賃と賃金を下げず労働時間短縮をいかに図るか。それには生産性向上が不可欠である。そこで以前から生産性の向上に取り組んできたのが司運輸(滋賀県長浜市、小澤典博社長)である。司運輸の保有台数は21台で、うちわけは大型車(13t低床)9台、4t車12台である。ドライバーは20人という中小事業者だ。4tエアサス車を4月、5月、6月に1台ずつ増車する予定だが、取材時点では4月増車のトラックがまだ納車されていなかった。ドライバーも4月1人、5月1人、6月1人の入社が決まっている。そのうち6月入社予定のドライバーは、観光バスからの転職者である。司運輸は機械、電子機器、家電など地元の製造業をはじめ様ざまな取引先を持っているが、長距離輸送はやらない。遠くても北は金沢、東は浜松、西は京都、南は三重ぐらいまでが輸送範囲である。同じ近畿地方でも兵庫や大阪には一切いかない。距離は近くても労働時間を重視しているからだ。
売上も賃金も下げずに時短を実現するには、①適正な運賃の設定と収受、②仕事の組合せによる生産性の向上が必要だ。同社の車両代替えは早く4t車は3年、大型車は5年で総て自己資金で現金購入である。下取り価格を差し引いた車両価格について、銀行から借り入れをして支払ったと仮定し、その利息を含めた金額を4t車は3年、大型車は5年で月割りし、さらに稼働日数で割ったものが車両費。そこに保険料、タイヤ代、車検代などを含めたものが固定費である。この固定費は1日の稼働時間が8時間、走行距離は往復400㎞以内としている。この中には燃料代を含めている。しかし、燃料価格はよほど大きな変動がない限り、基本的には上下させないという。運賃はこの固定費に変動費と利益をプラスする。人件費はほとんど変動費という考え方をしている。また、利益は10%を上乗せしている。さらに諸作業料は別途請求、また高速利用料金などは実費請求である。
待機料は、30分以内の待機時間は基本運賃に含んでいる。待機時間が30分を超えると、拘束時間内に仕事が終わっても30分ごとに2350円を請求する。事故率やクレーム率がゼロなので、強気の交渉を貫くことができているようだ。「何台も待機している車両があっても、うちは待機料が高いので、優先的に積み込んでくれるところもある」(小澤社長)。あるいは、「待機時間の長いところでは弁当代を出してくれるところもある」(同)という。このようなことを可能にしているのは、サービス品質は当然ながら、デジタコやGPSのデータを示して、数字の根拠に基づいて運賃などを算出しているからである。また、荷主の担当者に分かりやすいような提示の仕方をしている。これが売上と賃金を下げずに労働時間を短縮できるような司運輸の運賃算出と契約の仕方である。これらは、「アルゴリズムで考えている」(同)のだという。
もちろん荷主の協力は必要だが、「その前に自社がどれだけ変われるか」(小澤社長)が重要という。そのためドライバーと社長や管理職がディスカッションして仕事を分析する。空いた時間にどの仕事を組み込むかを検討するのだ。複数の仕事を組み合わせて8時間から9時間の間に仕事が終了するようにして、生産性の向上を図っているのである。ドライバー20人のうちの3人は課長で乗務員兼管理職である。半日は乗務して半日は企画・提案などをしている。また、ドライバーに同乗して現場で課題や改善点などの話しを聞き、それを基に荷主に改善提案などをしている。数年前は社長が積込みや荷卸しの現場でドライバーから話を聞き、必要に応じて現場の写真をスマホで撮って事務所のパソコンに送信したりもしていた。これらの資料を基に現場の改善策を考え、荷主に画像を示しながら改善提案をした方が理解されやすい。それを管理職ができるようになってきたのである。
司運輸ではドライバーの給料は以前から月給制だった。そのような中で、いかに生産性を向上するか。それは、労働時間が短いほど評価されるような仕組にポイントがある。ちなみに、同社の1日平均の拘束時間は10時間、労働時間は8時間で、土日は休みになっている。ドライバーの平均年齢は46.6歳で20代、30代もいるが、主流は40歳代である。平均年収は約450万円(総額)なので、厚労省の2018年の統計による大型ドライバーの年収457万円とほぼ同じである。だが、同じく大型車ドライバーの年間労働時間2580時間と比べると、時給換算では同社の方が上回っている。いかに短時間の仕事を組み込むかが重要で、ドライバーが取ってきた労働時間の範囲で可能なレギュラー以外の仕事なら、契約運賃の40%がインセンティブである。同社では安全教育などもクラウドを利用して事故の具体的事例を基に自ら考えるような仕組みを採り入れている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>