運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第120回】 株式会社アップル運輸(長野県上田市)
長距離引越のモーダルシフトで労働時間短縮を推進
引越サービスにおいても長距離の引越ではドライバーの長時間労働の改善が重要な課題になっている。また、帰り荷の確保など車両の稼働率の向上も図らなければならない。このような中でアップル運輸(本社・長野県上田市、小野秀彦社長)は、長野運送、善光寺白馬鉄道、日本貨物鉄道(JR貨物)とともに、8月3日づけで「引越荷物のモーダルシフト」について物流総合効率化計画の認定を受けた。国交省北陸信越運輸局によると、引越荷物のモーダルシフトの物効法認定は全国で初めてという。アップル運輸は1987年の設立で、貨物自動車運送事業の他に貨物輸送取扱業、第2種利用運送業、コンテナの賃貸および販売、紙類・加工紙販売、業務請負業、特定労働者派遣事業、産業廃棄物収集運搬業、飲食業などを行っている。本社ならびに上田営業所、長野営業所(長野市)、松本センター(松本市)、山梨営業所(山梨県中巨摩郡昭和町)、伊那センター(伊那市)がある。
アップル運輸の従業員数は社員が150人とその他にアルバイトが約100人。保有車両数は95台である。関連会社としてはアート引越センター長野(アートコーポレーションの長野・山梨地区におけるフランチャイジー)、ハローロジネット(損保代理業、貨物自動車運送事業、同取次事業、中古農機具の買い取りおよび販売)がある。このように同社の引越部門はアートコーポレーションの全国ネットワークと連携して事業展開するケースが多い。アートでは航空や鉄道を利用した事業も行っているが、アップル運輸では独自(4社)にモーダルシフトで物効法の認定を受けたのである。同社が長距離の引越輸送を何とかしなければならない、と考えるようになったのは10年以上も前からだった。「ドライバーの確保が難しい状況になり、一方では労働時間の短縮も図らなければならない。また、傭車運賃も高騰してきたので、何とかしなければいけないと考えていた」(小野社長)。
鉄道へのモーダルシフトを決断するキッカケは、昨年7月に受講したホワイト物流に関する講習会だった。「講習の最後に物効法の話が出た。そこで北陸信越運輸局に相談に行った」(小野社長)という。そして今年6月8日づけで第2種利用運送事業の許可を取得し、8月には物効法が認定された。同社とともに物効法の認定になったのは長野運送、善光寺白馬電鉄、JR貨物である。このうち長野運送は善光寺白馬電鉄の子会社で、アップル運輸では引越分野の営業的な面や、引越作業における人手確保などの面で以前から提携していた。そのような関係でJR貨物を含めた4社での認定になった。その間にトライアルで何便かを鉄道利用した。その結果、九州や北海道では時間的にもトラックと同じぐらいか、ダイアによっては鉄道の方が早い。また、積替えなどの不効率をなくすために、空のコンテナに引越荷物を直接積み込み、そのままコンテナ輸送するような形にしたのである。
これまで札幌向けは傭車が多かった。そこで長野から福岡への輸送をみると、「午前中に積み込んで13時に出発すると、途中で1泊して福岡には翌日の夕方着。現地で1泊して搬入は翌日になる。作業人員は現地のアートが手配してくれる」(垣見洋専務)。長野を出発してから3日目の搬入だ。「朝から搬入できれば昼くらいには終了する。だが、帰り荷が翌日の積込みだと長野に帰ってくるのは6日目になる。しかし長野に運んでくる帰り荷が少ないため、どこかに帰り荷を届けて1泊してから帰るとなると7日目になってしまう」(同)。鉄道では北長野駅か南松本駅のどちらか近い駅を利用する。「北長野駅を19時55分に出発した引越荷物は、南松本駅からの列車を連結して首都圏に行き、福岡なら翌々日の0時59分着、札幌なら翌々日の6時05分着になる」(同)。福岡貨物ターミナル駅や札幌貨物ターミナル駅からは、地元の協力会社に委託して顧客の転入先に搬入する。
今後は「大阪より西、福島より北は鉄道を第1に考え、トラック輸送は1泊2日以内を基準にする」(垣見専務)。モーダルシフト効果は、ドライバーの運転時間を年間1140時間(93.5%)省力化でき、また、CO2排出削減量は36.9t(88.0%)という。使用するのはJR貨物の5tコンテナで、「当社の場合は家族引越の平均的な荷物は17㎡で、5tコンテナは容積が19㎡だから平均的な家族の引越なら大丈夫」(小野社長)という。専用トラックは6t車で、脱着式のあおりを付ければ普通の平ボディ車としても使用できるようにした。また、作業に使用する機材や資材などを収納できるボックスをトラックに脱着できるようにした。収納ボックスは奥行きが2m、幅が1mで、高さは2mである。さらにコンテナ専用車両には3人が乗れるようにもした。ドライバーと作業要員が1台の車で移動できるようにしたのである。この6t車は実用新案を申請している。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真3はアップル運輸の提供)