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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第122回】    菱木運送株式会社(千葉県八街市)

GPS「乗務員時計」と点呼ロボットを連動

 労働時間短縮は運送事業者の大きな課題だ。そこで菱木運送(実質本社・千葉県八街市、菱木博一社長)では、ドライバーも管理者も労働時間や拘束時間などをリアルに把握できるシステムの開発を続けてきた。車載端末の日時状況では連続運転可能時間、停止時間残余、拘束時間残、休息時間残、休憩残、点検、中間点呼、次回出勤可能時間などが分かる。また、拘束時間確認では拘束時間残、15時間超過可能回数などが分かるようになっている。運行管理者がトラックに同乗しているかのようなシステムで、ドライバーが自ら時間管理をして自発的に労働時間短縮に取り組めるようになっている。一方、事務所のパソコン画面では運転手ID、運転手名、状態、車両名、エンジン、現在地、地図、詳細、拘束終了時間、休息/休日時間残、休日設定、連続運転残、休憩残(分)、日常点検、乗務前点検、中間点呼、乗務後点呼、日次警告数、日次エラー数、月次順守率%などが分かる。

 菱木運送の設立は1971年。現在の保有台数は36台で、内訳は13t平ボディダンプ車5台、13tウィング車24台、7tウィング車1台、3tウィング車1台、2t車1台、トレーラウィング車4台である。同社が時間管理システムの開発を発想したのは2006、7年ごろだった。2011年に第1号機を導入し、その後も改良を続けて、2016年に導入した2代目の機器で前述のような内容がドライバーも事務所もリアルに管理できるようになった。この間、2009年には最初の特許を出願して取得。その後も数多くの特許を取得して知的財産を蓄積してきた。さらに同社は、昨年秋から車載端末にスマホを使用するようにした。「乗務員時計アプリ」と呼んでいるが、スピードなどもGPSで計測するようにしている。スマホ端末は現在まだ約10台しか導入していないが、順次、車載端末をスマホ(乗務員時計アプリ)に替えていく計画である。

 同社では長距離輸送も行っているので労働時間の短縮は大きな課題だった。それには経営者とドライバーが改善基準告示を順守するという認識を共有しなければならない。荷主に労働条件の改善などを要請するにも、説得性のあるデータを示す必要がある。そこでドライバーと管理者の双方が労働時間をリアルに把握できるようなシステムの開発に取り組んできたのである。独自のシステム開発・導入によってドライバーが自分から時間を管理し、自発的に労働時間短縮に取り組むようになった。労働時間短縮は交通事故の減少にもつながり、ドライバーの家族に安心感を与える。さらに、取引先との交渉もデータの裏付けをもってタイムリーにできるようになった。たとえば待機時間が異常に長ければ、管理者が着荷主に連絡して待機時間が長くなっている理由を確認して改善要請ができる。また、発荷主には追加料金の交渉をするといった対応が迅速にできるようになったのである。

 だが自発的に時間短縮に取り組むには、労働時間の短縮で賃金が減少しない賃金体系が必要だ。そこで2014年から、みなしの残業代を含めた固定時間分の定額給料を支払うようにした。労働時間が固定時間に満たなくても同じ給料額を支払う。この賃金体系でドライバーが工夫して自主的に労働時間短縮に取り組むようになった。また、残りの拘束時間なども把握できるので会社指定の調整休日を有休で導入している。同社ではデジタコ連動の車載端末からスマホで端末操作ができるように切り替えつつある。基本的には従来のほとんどの機能がスマホでも可能で、スピード計測もGPSで行っている。ただ、デジタコでないと把握できないのは急発進や急加速、アイドリングなどである。「それを除くとスマホで問題ない。だがOBD2(オン・ボード・ダイアグノーシス)のデータを使えば、急発進やアイドリングなどのデータも廉価に取れる可能性がある」(菱木社長)という。

 同社では出退勤機能を加えた点呼ロボットも導入した。スマホのデータをロボットと連動しNG項目があると「出勤できません」と表示される。たとえば休息不十分なら「○時○分以降に出勤してください」、連続勤務なら「休日が取得されていません」と表示され乗務前点呼に進めない。スマホアプリから拘束時間の残余時間などがリアルで更新、表示されるが、そのデータに基づいて点呼ロボットが1日の労働状況や次回出勤可能時刻などを把握できるようにしている。現在は運行管理者とロボットが二重に点呼をしているが、点呼ロボットとGPS「乗務員時計」の連動で、「運行管理のレベルを向上するとともに、機械化によってバラツキをなくし運行管理レベルの平準化を図る」(菱木社長)としている。なお、この点呼ロボットには安全指導コンテンツも導入しているので、1カ月に1回の安全指導教育を、顔認証でドライバーは自分の都合の良い時に受講することができる。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>