運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第127回】 大隅物流有限会社(茨城県稲敷市)
医薬品に特化しGDP(医薬品保管輸送基準)対応の輸送サービス
今年3月1日にトラック運送事業者として初めてCEIV Pharmaの認証を取得したのは大隅物流(茨城県稲敷市、山川栄明社長)。CEIV Pharmaは、IATA(国際航空運送協会) が策定した医薬品の航空輸送に関する品質認証制度である。GDP(医薬品の保管・輸送基準)は欧米や日本など世界各国で異なるが、それらを包括した水準の高い認証制度である。大隅物流は医薬品専門の運送事業者として温度逸脱管理などにノウハウをもっている。これは同社が当初から医薬品専門の物流事業者としてスタートしているからだ。GDP(Good Distribution Practice)は医薬品に関する適正流通基準で、日本では2018年12月に日本版GDPガイドラインが発表されたが、その6年前の2012年から大隅物流ではGDPに関する調査・研究をはじめている。そしてGDPを考慮した輸送車両の開発も進め、同年には加温機能付き3t保温車を導入。翌2013年から医薬品物流事業を開始した。
一方、CEIV Pharmaは成田空港コミュニティ(航空会社=全日本空輸・日本貨物航空、貨物ハンドリング会社=国際空港上屋・JALカーゴサービス、フォワーダー=日本通運・阪急阪神エクスプレス・日立物流バンテックフォワーディング・郵船ロジスティクス、陸運事業者=大隅物流の9社で構成)で、2019年10月から認証取得に向けて取り組んできた。成田空港で取扱う医薬品の貿易額は、港を含む日本全国の医薬品貿易額の約半分を占めているという。そのため成田空港における医薬品貨物取扱いの品質向上は重要である。前記のように成田空港コミュニティは各分野の大手企業がメンバーだが、そのような中にあって大隅物流は施設内にファーマクロスドック・センター(医薬品温調庫)を備えているが、保有車両台数16台(1t車1台、3t車5台、4t車5台、10t車5台)、従業員数は14人(うちドライバー10人)という中小事業者である。
なぜ、大隅物流は医薬品専門の物流会社になったのか。山川社長は運送会社の長男だが製薬メーカーが医薬品を製造する機械の商社(一部は自社でも製造)に勤めていた。医薬品を製造する工程には様々な機械が必要で、製造する医薬品によってそれら各種の機械を組み合わせるという。その設計などを行っていたのである。その後、山川社長は運送業をやることになり、2012年5月に商社を退職した。その際、医薬品メーカーの関係者の中に、「海外ではすでにGDPがガイドライン化されているので日本にもいずれGDPが入ってくる。医薬品の保管・輸送管理基準は国際的に統一さるべきものなので、GDPをやれば必ず上手くいく、と言ってくれた人がいた」(山川社長)のである。医薬品の製造や品質管理についての基準としては、1969年に世界保健機関が勧告したGMP(医薬品適正製造基準)がある。GMPが製造工程の基準ならGDPは保管・物流過程の基準である。
「これまでは医薬品メーカーの製造工程に関わる仕事をしてきたので、GMPに基づいて仕事をしていたことになる。だが、医薬品の保管と物流に関しては、たとえば冷所保管に関しても欧米は2~8℃が多いが、日本では15℃以下など、日米欧の3極でも違いがあった」(山川社長)という。しかし、これからは「医薬品物流事業者はGDPの基準に対応して、メーカーの要望する品質レベルに基づいて運ぶことが求められるようになってくるはずだ」(同)と考えた。このようなことから、父親の経営する運送会社とは別法人の休眠会社で2012年5月から2013年5月までの約1年間、GDPに準拠した品質レベルの運送をするための調査・研究をした。そして2013年に現在の大隅物流に社名変更している。この間は、父親の運送会社の営業所として届け出て運送の実証実験を行っていたという。同社が貨物自動車運送事業の許可を取得したのは2013年6月である。
医薬品輸送で重要なのは温度管理だ。「普通の冷凍車は冷やすことしかできず、加温機能が付いていない」(山川社長)。また、庫内のあらゆる箇所で一定温度を保つ必要がある。夏と冬、走行状態などで条件が異なる。同社では「冷凍車を3回改造した」(同)という。同社では医薬品物流に関連するいくつかの事業も行っている。その1つはエルプロ社(スイス)の日本における正規代理店として、温度ロガー(計測結果を時系列で記録する装置)の販売である。またGMPとGDPに適合した温度マッピングサービスも事業として行っている。製薬会社、病院、空港内の施設、物流会社の保管庫内や輸配送車両の庫内など、医薬品を取扱っている様々な空間における温度分布の状態を計測するサービスである。さらに、バキュテック社(ドイツ)の医薬品GDP輸送向けレンタル温度管理輸送箱「バキュテナー」や小型の「バキュプルーフ」「バキュワン」のレンタル管理事業も行っている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>