運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第129回】 夏島運輸株式会社(神奈川県横須賀市)
ニッチ市場で独自の展開・軽貨物にも参入
一般貨物輸送では競合する事業者が多い。だが、他社がほとんどやっていない特殊分野の輸送なら競争が少なく、適正な利益が確保しやすい。自動車部品や食品・飲料などの輸送も行っているが、展示模型、楽器、美術品、希少動物剥製、骨格標本などの特殊な輸送分野を得意とし、独自の経営をしている事業者がいる。この事業者は夏島運輸(本社・神奈川県横須賀市、近藤智平社長)である。同社の設立は1969年9月で、現在は本社営業所の他に、相模原営業所(神奈川県相模原市)、袋井営業所(静岡県森町)、関連会社として埼玉夏島運輸(埼玉県桶川市)がある。保有車両数は107台(トレーラ~軽貨物まで、埼玉夏島運輸含む)で、従業員数は105人、売上高12億円である。会社設立時は自動車部品輸送からスタートしたが、重機輸送と重機関連部品、食品・飲料などにも輸送品目を多様化、さらに特殊輸送を行う。そして昨年6月からは軽貨物配送も始めた。
近藤社長が社長に就任したのは昨年6月でちょうど1年が経つ。昨年の第1四半期はコロナの影響が大きかったという事業者が多いが、同社も例外ではない。そのような時期の社長就任だった。取扱い品目を多様化してきたので自動車部品の取扱いは売上の約30%だが、やはり昨年の第1四半期には少なからぬ影響を受けている。だが、特殊分野の輸送を得意としていることでコロナの影響も最小に留めることができた。同社の特殊輸送をみると、精密機器関係では守秘義務のあるような部品や、それに関連する研究資材などもある。「夕方の積込みで翌日朝の出発だが、トラックの積み置きは取引先の構内でないといけないので、ドライバーだけが帰ってくる。そして翌朝、駐車してあるトラックに行って出発するような荷物もある」(近藤社長)。もちろん道路の走行経路などは事前に届出し、固縛はドライバーがやるが積込みは取引先で行い、納品先でも車上渡しという荷物もある。
楽器などは大学関係が多く、美術品は劇場や美術館などである。また、芸術家個人からの依頼もある。「美大の学生当時に当社が運んだので、卒業後に個人的に依頼してくれたりするケースもある」(近藤社長)という。また、希少な剥製の輸送などでは作業なども慎重を期さなければならない。経験豊かな責任者が現場を担当するが、社長をはじめ取締役など責任が取れる立場の人間が立ち会う。「骨格標本などは宙づりにした状態で、上下左右に揺れてもどこにも当たらないで衝撃が伝わらないようにして運ぶ。たとえばシーラカンスの剥製などの輸送では、さらしで巻いて揺れを防ぎ、車両は後輪だけエアサス仕様」(同)である。このような希少な標本や剥製などでは、「保険会社から保険の適用外にされるケースもある」(同)。つまり値段がつけられないということである。「南ゾウアザラシやシーラカンスの剥製などは輸送車の前に先導車、後にも後続車を付けて輸送する」(同)という。
1年前に社長に就任したタイミングで軽貨物配送の分野にも参入した。「コロナで大変な状況だったが、以前から軽貨物で宅配ができるようにしたいと営業部には言っていた」(近藤社長)。そのような中で直接のキッカケになったのは地元の大型総合ショッピングゾーンに入っているテナントの宅配の話があったからだ。そこで軽自動車を2台導入した。しかし、軽貨物の経験がないので、軽貨物を行っている同業者から契約、運賃、管理手法などを教えてもらい、軽貨物専用のドライバーを募集して採用した。軽貨物のドライバー採用は初めてなので最初は営業担当者が同乗して指導した。ところが、「2台で軽貨物を始めたら、コロナワクチン配送の話があり28台増車して30台になった」(同)。最初の2台以外は自営業者との契約で2週間に28台を揃えた。ワクチン配送はいずれなくなる仕事なので、将来的には地元密着の新サービス分野を創造し50台規模まで拡大する計画である。
同社が軽貨物に力を入れるは雇用対策として入口と出口を整えるためである。高校新卒者は準中型車までは良いが中型車以上はすぐには乗務させられない。一方、高齢ドライバーには大きな車両で体がきつくなっても、軽貨物で働いてもらおうという考えだ。さらに管理業務ではRPA(Robotic Process Automation)を導入して標準化に取り組んでいる。経営面では昨年6月から5カ年計画を立て、最終年度には20億円を目標にしている。今後も特殊分野のニッチ戦略には力を入れていくが、拠点戦略としては関西に拠点をもつ計画で、大阪で物件を探している。現在は西の方の営業所は静岡県の袋井までだが、兵庫県の明石市には毎日トレーラで輸送しており、大阪府の枚方市や、佐賀県の鳥栖市には週に1、2回輸送している。関西に拠点をもてば労働時間短縮などの課題にも様々な取り組みが可能になるという考えだ。もちろんM&Aといったことも視野に入れている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>