運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第130回】 東群運送株式会社(群馬県桐生市)
非常用+コロナ感染防止グッズを全車両で携帯
最近は豪雨などの自然災害が多発し、運行中に様々なアクシデントに見舞われることが多くなった。そのような非常事態に遭遇した場合にも、ドライバーが安心、安全に対応できるよう日常的に備えておくことが必要だ。さらコロナ禍ではコロナ感染防止の対策も不可欠になっている。東群運送(本社・群馬県桐生市、齋藤佳代子社長)では、2011年の東日本大震災の教訓を踏まえて、震災直後から非常時対策用のグッズを全車両に備えるようにした。さらに昨年からはコロナ感染防止用の消毒液なども合わせて全車両に携帯するようにしている。同社の社歴は古く創業は1933年で、会社設立が1949年。同年に一般区域貨物自動車運送事業免許を取得し、翌年には通運免許も取得している。桐生市は古くから織物の産地で有名だが、同社は地元の繊維製品などの輸送から運送事業をスタートした。その後、足利市や伊勢崎市、前橋市、東京や横浜を拠点に事業展開してきた。
現在は桐生市の本社の他に伊勢崎物流センター(伊勢崎市)、墨田パーキング(東京都墨田区)、足利倉庫(栃木県足利市)がある。また現在、伊勢崎物流センターに隣接した場所(道路を隔てて所在は太田市)に用地を取得して、新たな営業所の建設を進めている。現在の取扱い荷物は繊維関連製品、医薬品、医療器具、電気部品、自動車部品、事務機器、精密部品、その他と多岐にわたる。従業員数は49人(パートを含む)で、そのうちの20人がドライバー職である。保有車両数は28台。同社では福利厚生の一環として、毎月中旬に「カレーの日」を設けてきた。会社で作ったカレーを作業員や事務職の人たちは昼食時に、ドライバーの人たちは帰社してから希望者が食べるというもの。だが、昨年7月からは一時的に中止することにした。「コロナ禍でも最初のころは続けていましたが、社員の1人が『コロナは大丈夫だろうか』と心配した」(齋藤社長)からである。
同社が東日本大震災の直後から実施しているのが、非常持ち出し袋の全車両への常備である。中身は、水(2ℓ)1本、非常食(乾パン)1個、非常食(ビスコ)1個、非常食(アルファ米)2個、塩1袋、懐中電灯(電池入り)1個、アルミシート1枚、ビニール袋2枚、タオル2枚、新聞紙5枚くらい、軍手1組、紙コップ3個、手提げ袋1個、カイロ3個、マスク2枚、ばんそうこう4枚、ティッシュ3個、除菌ウェット1個、ふえ1個、マッチ1個、予備電池(単3)2本、である。「災害などに遭って車が動けなくなっても3日間は生き延びられる」(齋藤社長)ための備えだ。なお、除菌ウェットやマスクはコロナ禍の以前から常備していたもの。このうちの何かを使用したら申請して補充する。また、使用しなくても月1回は賞味期限などをチェックして入れ替えるようにしている。この備えが役立ったのが昨年12月の大雪で関越自動車道でトラックが立ち往生した時だった。
立ち往生したトラックは2t車だが納品先で組立作業があるので2マンだった。だが「2マンでは非常用グッズが2つ必要とまで気づかなかった。非常食などは2人で分け合って食べ、アルファ米は最後までとっておこうと話し合っていたようです」(齋藤社長)。この教訓から2マンの場合には非常時グッズを2組もって乗務することにした。同社ではコロナ禍で非常用の他にコロナ感染防止のグッズも増やした。1つは次亜塩素酸ナトリウム液である。除菌、消臭、防腐効果のために全員に持たせている。さらに安定化二酸化塩素も常備するようにした。「最初はインフルエンザ対策として全員に持たせようと、一昨年の早い時期から地元のメーカーと話しをしていたらコロナになったので、コロナ感染予防用として昨年5月から常備するようにした」(齋藤社長)。また、夏場は経口補水液も1本持たせている。さらにコロナ禍でオリジナルマスクを作り地場産業との関係を強めている。
同社の長年の取引先の1つにオーガニックコットンの製造会社がある。オーガニックコットンは肌触りが優しく健康にも良いので取引先から生地を調達し、やはり地元でシルクプロティン加工をして縫製している会社に依頼してオリジナルのマスクを作ってもらった。さらに桐生市内にある繊維工業試験場に依頼して効果を試験したら、洗濯して「100回使用しても80%の効果が残っている」(齋藤社長)という試験結果が出た。そこで昨年2月に社員1人2枚ずつ配布し、取引先にもプレゼントした。その後は夏用の薄めの生地で可愛いキャラクターをプリントしたマスクにしている。その他、オーガニックコットンのメーカーから様々な色のカラフルな生地の端切れをもらったので、可愛いカラーの子供用マスクを作り社員の子供たちに配ったりもしている。このように東群運送はコロナ禍にあって社員の感染防止に努め、同時に地元密着の新しい関係づくりが進行している。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>