運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第139回】 菱木運送株式会社(千葉県八街市)
点呼ロボットに各種の機能を付加して実用性を向上
国交省は物流DXでデジタル化を推進している。デジタル化の1つにロボット点呼がある。2023年1月には条件付きで乗務後の自動点呼(ロボット点呼)が認められる予定だが、一気に全面的なロボット化とはならず条件付き容認になる。乗務後の自動点呼(ロボット点呼)で、非常時には運行管理者などが対応できるという条件付きになるものと思われる。分かりやすく自動車の自動運転に例えるならレベル5ではなく、レベル4ぐらいからのスタートになると考えれば良いだろう。だが、条件付きではあってもロボット点呼が容認されてから点呼ロボットを導入したのでは遅い。部分的な容認でも、すぐに実用化できるようにいまから準備をしておくべきである。それと同時に重要なことは自社に見合った自動点呼の実用化である。もちろん基本機能(点呼要件を満たす)だけでも、運行管理者の負担軽減にはなるだろう。だが点呼ロボットの基本機能だけでは導入効果が少ない。
そこで点呼ロボットの基本的な機能に、自社に見合ったどのような機能をプラスすればより大きな効果が得られるのかを考えておくことが必要だ。そのような点から、菱木運送(本社・千葉県匝瑳市、営業所=実質本社=同県八街市、菱木博一社長)では、「点呼機能だけではなく、自社にとって必要なその他の機能もオプションで加えて付加価値を付ける」(菱木社長)という、点呼ロボット導入・活用の基本的考え方を持っている。そこで現在、導入している点呼ロボットは自社の管理の必要性などから、基本的点呼機能の他に出退勤管理、スマホ・デジタコ連携、安全指導という4つの機能をオプションで付けている。同社がこのような考え方に至るには、労働時間管理とドライバーが自主的に労働時間短縮を進めるように独自開発した「乗務員時計」など、これまでの長年の取り組みがある。そこで労働時間短縮への同社の歩みからみることにしよう。
菱木運送の設立は1971年で、一般貨物自動車運送事業、貨物運送取扱事業、倉庫業などを行っている。保有台数は36台で社員数は57人である。同社は長距離輸送もあるので、労働時間短縮は大きな課題だった。そのため労働時間管理のデジタル化と、見える化に取り組み、2016年6月にメーカーと連携して開発・導入したのが「乗務員時計」だ。デジタコと車載端末(現在はスマホ)を使って次のような内容をリアルタイムで分かるようにした。車載端末の日時状況では、連続運転可能時間、停止時間残余、拘束時間残、休息時間残、休憩残、点検、中間点呼、次回出勤可能時間など。また、画面を切り替えて拘束時間確認を見ると、拘束時間残、15時間超過可能回数などが分かる。運行管理者が同乗しているかのようで、ドライバーが自ら時間管理をして自発的に労働時間短縮に取り組めるようにしたのだ(自主的に時短に取り組むような給与体系については割愛する)。
一方、事務所のパソコン画面では、運転手ID、運転手名、状態、車両名、エンジン、現在地、地図、詳細、拘束終了時間、休息/休日時間残、休日設定、連続運転残、休憩残(分)、日常点検、乗務前点検、中間点呼、乗務後点呼、日次警告数、日次エラー数、月次順守率%などが分かる。なお、2019年秋から「乗務員時計」のシステム端末にスマホを使用するようにし、スピードなどもGPSで計測するようにした。端末として使用するスマホは電話機能をなくしたもので、一般のメールは使えないがシステム内のメール機能は使用できる。なお、現状では法的にデジタコ搭載が必要なので、GPSではなくデジタコと連動させた使用も可能である。さらに同社は、点呼ロボットを2020年春に導入し、同年秋から本格稼働させた。サーバー経由でスマホのデータと点呼ロボットを連動。点呼ロボットに出退勤機能なども持たせることで運行管理レベルの向上と運行管理の平準化を図った。
同社の点呼ロボットには4つの機能がある。①点呼機能=点呼実施の支援・点呼記録簿・免許証有効期限の確認・アルコールチェック、キーボックス連携・血圧測定・体温測定。②出退勤管理=出勤・退勤時刻管理・休息時間管理・拘束時間管理・有休や休日管理・残業時間管理。③スマホ・デジタコ連携=運行(順守)状況をリアルタイム管理・運行中の速度超過や急加速等管理・退勤時に労務違反(改善基準告示違反)を指摘。④安全指導=正確な乗務員教育・国交省が定めた「指導・監督指針」の順守。このうち出退勤管理とスマホ・デジタコ連携は、「乗務員時計」の機能で、点呼以外の日常業務、運行管理者の負担軽減になっている。スマホのデータをサーバー経由でロボットと連動することで、出勤処理ではロボットが勤務間のインターバルをチェック。安全指導では毎月の安全指導教育をドライバーが自分の都合の良い時に受講することができ、教育担当者の負担軽減にもなる。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>