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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第140回】    丸憲運輸有限会社(青森県東北町)

荷台屋根の自動開閉でチップ輸送の荷役効率と安全性向上

 木材チップはハコ車の天井から積み込むため、チップ輸送車は荷役作業時には荷台の天井が開いていなければならない。だが、天井を開けたまま走行するわけにはいかない。そこで丸憲運輸(青森県上北郡東北町、原田悟史社長)では、これまでハコ車の天井にシートを掛けて運んでいた(当リポート2018年10月既報)。しかし、シート掛けのための時間を短縮して効率化するとともに、シート掛け作業の危険性をなくして安全性を向上するために、荷台天井の開閉の自動化を考案。地元の鉄工所に依頼して自動開閉車を開発・導入した。同社は、この車両の開発で全日本トラック協会の「青年経営者等による先進的な事業取組に対する顕彰」で、2021年度の金賞を受賞した。実は同社の金賞受賞は今回が2度目で最初は2015年度だった。最初の受賞は一般貨物用のウィング車を少し改造しただけで原木輸送も可能にした取り組みに対してだった。

 丸憲運輸の設立は1977年。昔は関東までの長距離輸送も行っていた。だが、収益性や労働時間などの関係もあり、長距離輸送からは少しずつ撤退してきた。それに伴って必要なのは取引先の新規開拓である。同社の現在の保有車両は26台で、内訳は大型車が14台、4t車6台、2t車5台、ユニック車1台である。従業員は46人で、そのうちの35人がドライバーである。運送部門の他に構内作業なども行っている。運送部門の業務内容は、製紙関係(段ボールの配送など)、加工食品のチルド輸送、スーパーのドライ商品の配送などである。スーパー関係の業務は、東北6県をカバーしている大手スーパーの仙台センターから、青森センターへの幹線横持ち輸送。また、ドライ商品では、青森県内の同社所在地に近いエリアにある店舗への配送を行っている。だが、仙台に引取りに行くほとんどの車両が往路は空車だった。そこで往路の荷物の開拓が必要だったのである。

 「青森県は1次産業が主な県です。地元からの荷物は1次産品で季節波動も大きい。仙台などからの下りの荷物は従来から安定的に確保していたが、上りの安定した荷物の確保が大きな課題でした」(原田惇専務)。そこで着目したのは木材系の荷物だった。林業関係の荷物の開拓を考えたのは約10年前である。原木輸送は一般にはグラップル搭載車やクレーン搭載車などの専用車両が必要で、しかもほとんどが典型的な片荷輸送だ。だが、運賃は高くない。さらにドライバー不足などもあって、専業事業者の原木輸送からの撤退が増えていた。つまり原木輸送の分野では車両が不足していたのである。その上、地元の森林組合の販路はほとんど近くの製材所だけで、仙台などには販売できていなかった。一方、丸憲運輸では仙台にたくさんの車両が行っている。とくに空車で仙台まで荷物の引取りに走っている車両で地元から原木を運ぶことができれば収益性が向上する。

 そこで2015年にウィング車に取り外し可能なスタンションを設けることで原木輸送も可能にした。その当時、原木の出荷場所にはチップ工場もあり宮城県の石巻や岩沼にある製紙工場にチップを運ばないか、という話があった。だが、「躊躇してその時はいったん断った」(原田専務)。荷卸しに問題があったからである。チップの積込はタイヤショベルで可能だ。しかし、ダンプタイプの車両ではなくウィング車なので、荷卸しが手作業になってドライバーに負担をかけてしまう。それに荷卸し作業に時間がかかるので労働時間が長くなり、車両の回転率も低下する。だが、「断ったことを後悔していた」(同)という。そこで2018年にウィング車で木材チップ輸送もできるような車両を導入した。この車両は荷台の屋根の部分にシートを掛けて走行していたが、シート掛けやシート外しに時間がかかり、また作業が危険だった。そこで荷台の屋根を自動開閉にしたのである。

 ボディの製作は地元の鉄工所に依頼した。具体的なイメージがわくように「プラモデルを作って持っていき、それを見せながら天蓋が自動開閉する車両の製造を頼んだ」(原田専務)。車両はコロナ前に納車されたが納品先の製紙工場の事情で一般貨物輸送をしていた。往路はチップ輸送、復路は一般貨物輸送を始めたのは2021年秋からだ。「従来はハコ車の天井のシートをはがすのに10から15分、シートを掛けるのにも10から15分はかかっていた。だが、電動ならそれぞれ20秒ほどで開閉できるのでドライバーの労力軽減になった。またハコ車の天井に上っての作業は危険だった。とくに天候の悪い日や、冬場は雪で滑ったりする危険があったが、今度は安全に作業ができるようになったので、荷主が安全性を高く評価してくれた」(同)という。丸憲運輸では今後も「貸切単位の定期便の新規開拓を想定している。そのためマルチ型の車両開発を考えている」(同)。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>

(写真提供:丸憲運輸)