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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第141回】    道前運送株式会社(愛媛県西条市)

近場で月残業時間45時間、長距離でも60時間以内

 「2024年問題」に象徴されるように労働時間短縮が大きな課題になっている。そのような中で、すでに近場のドライバーでは1カ月の残業時間が45時間、中長距離のドライバーでも60時間以内になっている事業者がいる。「2023年問題」もクリアしていることになる。この事業者は道前運送(愛媛県西条市、森川公社長)だ。同社の設立は1955年で、最初は車両3台で道前小型貨物運送の社名でスタートした(1964年に現社名に改称)。昔は路線事業者の集配業務のウエイトが多かった。しかし、その後は路線の集配からは徐々に撤退し、事業内容の転換を図ってきた。積載率低下や低運賃、さらに商品購入を強要されるなどがあったからだ。また、一時期は生コンのミキサー車を増やしたこともあったが、現在は撤退している。道前運送が大きく経営方針の転換を図ったのは約10年前であった。労働基準監督署と運輸支局の監査が入ったことがそのキッカケだった。

 群馬県藤岡市の関越自動車道上り線藤岡ジャンクションの近くで、高速ツアーバスが防音壁に衝突して乗客7人が死亡、乗客乗員39人が重軽傷を負うという大事故が起きたのは2012年4月だった。その年に、道前運送に労働基準監督署と運輸支局から監査が入った。「それまでは労働時間などについては、いかに誤魔化すかを考えていた。だが、正面から取り組まなければなればいけないと思うようになった」(森川社長)という。そのためには適正な契約のできる荷主との取引を増やし、労働時間の長い取引先や、採算性の低い取引先からの撤退が必要だ。おりしも今治に工場のある食品関係の大手荷主との取引が徐々に増えつつあった。道前運送では、この荷主との取引に人も車も集約化を図った。メインの荷主との取引が増えるごとに、不採算で長時間労働を余儀なくされる荷主から撤退してきたのである。同時に経営内容も徐々に転換を図ってきた。

 現在の保有車両数は29台で、第一倉庫、第二倉庫、楠倉庫がある。従業員数は36人、売上高は7億3000万円(2021年12月期)である。同社はこの間、「採算性の低い取引先、労働時間が長い取引先から撤退した」(森川社長)。そして適正な契約のできる荷主との取引を徐々に増やし、人と車両を当該部門への集約を進めた。さらに「今後ますますドライバーの確保が難しくなっても持続できるような経営への移行を図ってきた」(同)。メイン荷主との取引は、基本的には①工場への集荷、②倉庫からの出荷、③納品先への輸配送である。運賃は集荷から倉庫、納品までの一貫契約とし、パレットの回収なども含めている。運賃契約の基本は重量建て(㎏)で、さらに輸送距離については原則的に都道府県単位としている。また、工場からの集荷も前日出荷としている。幹線輸送の車両は16パレットを積める大型車で、隙間のスペースにはバラの荷物を積んで積載率を高めている。

 メインの荷主の荷物をベースに、他の荷主の荷物を積合せる。だが、基本はあくまでメイン荷主の貸切運賃で、他の荷主の安い運賃の荷物は積合せない。「安い単価の仕事を増やしても結果的には安くなる」(森川社長)だけだ。では、具体的にどのように労働時間短縮を進めたのか。「労働時間短縮はまず労働時間の実態の把握から始めないといけない」(同)。実態を把握したら、次に、改善基準告示に当てはめて、どうすれば改善できるかを考える。同社では「集荷をなくそう。それがネックになっている」(同)と考えた。幹線輸送のドライバーが集荷するのではなく、集荷を専門にすることからスタートした。そうすれば待機時間も無くなる。さらに荷主が工場から前日に出荷してくれるようになった。そのため集荷車両を自由に稼働することができ、工場内での集荷の待機時間をなくすことができた。現在は大型車7台で工場と道前運送の倉庫間を述べ1日30便ぐらい運行している。

 道前運送では納品先のパレットを事前に借りてきて、同社の倉庫から出荷する段階で納品先のパレットに積み替える方法も取り入れた。納品先でドライバーが行うよりも短時間でできるので拘束時間の短縮になる。集荷と幹線輸送の分離で、昼に積んで大阪なら6時間で輸送できる。静岡や東京への輸送では昼に積み込んで、いったん家に帰って8時間以上の休息をとってから出社して出発。途中で1泊しても30時間から32時間後には到着できる。同時に「ドライバーの確保が難しくなっても持続可能な経営」(森川社長)への転換も図っている。たとえばメインの荷主では、北海道向けはJR貨物を利用し、自車両では北関東や九州などに運んでいる。その他、ロットや諸条件に応じてフェリー船社への委託もしている。集荷からフェリー輸送、航送先でのトラック輸送もフェリー会社への一括委託である。比較的近い関西でも乙仲に委託しているケースもあるようだ。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>